【会長談話】最近の生活保護に関する報道に関して

ここのところ、生活保護に関するメディアの報道が加熱しています。芸能人の母親が生活保護を受給しているという週刊誌のリークから始まり、インターネットサイトの記事が議員を動かし、当事者の親族が記者会見にて謝罪するということまでになり、それを多くのメディアが扱ったのはご存知のことと思います。とある世帯の生活保護受給について、その可否に及ぶ部分にまで土足で踏み込むような報道合戦には正直言葉を失います。事実の認定が曖昧なままに「不正受給」という言葉が用いられ、生活保護は得であるとか、受給者全体のイメージを損なうようなものや、生活保護本来の目的をも否定しかねないような内容にまでのものも散見されます。

事の発端となった芸能人の母親世帯のケースに関して言えば、定期的に福祉事務所から母親に関することについて協議がされていることなどが事実であるとすれば「不正受給」という状況ではないはずであり、福祉事務所にとっては、生活保護法77条に基づいて扶養を求めればいい話のはずです。これに関連させた上で、あたかも不正受給が全国的に横行し、「正直に働いていることが損だ」という印象を与えかねない報道は、慎むべきではないでしょうか。全国各地で貧困の問題に対峙している方々、各福祉事務所の最前線で奮闘している担当者に対して、あまりに無礼であると言わざるを得ません。

不正受給が問題であるとするのなら、その原因などにしっかりと焦点を当てた上で、「生活保護の担当には社会福祉士などの専門職を採用すべき」というくらいのことがあっていいはずですが、残念ながらそのような報道を私は今日現在見ておりません。事実かどうか認定されていない事象をそのまま取り上げ、冷静さを欠いたかのような報道に対して、市民は冷静に分析することが大切であるように感じています。しかしながら昨日厚生労働大臣から発せられたコメントは、扶養義務照会の権限強化、加えて基準額の一律10%カットといった、信じ難い内容でした。就労支援プログラムもハローワークと職業訓練施設は千客万来ですが、肝心の雇用先の開発が遅れています。医療費負担の増加対策も打てておらず、まだまだ生活保護制度が抱える課題は山積みです。給付削減の前にやるべきことはあるはずであり、生活保護の担当に社会福祉士などの専門職を採用する前に給付削減に向かうことに、職能団体の長として己の無力さを禁じ得ません。

先にも書きましたが、報道機関各社においては、生活保護制度に関しての冷静な分析と、事実に基づく報道を行なっていただき、見る側の私達も、冷静な頭でこの問題に関する報道に接することが大切ではないでしょうか。冷静さを欠いた報道により、国の大臣までもが冷静さを欠いては話になりません。厚生労働大臣にも、問題点を冷静に分析していただき、安易な給付削減といった方向へ走らないように期待するところです。

そしてこの分野にこそ、もっと積極的に社会福祉士の専門性を活用していただきたいと思います。

社団法人千葉県社会福祉士会 会長 神山裕也

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